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糖尿病

糖尿病ってどんな病気?自覚症状がない?重篤な合併症や治療方法を解説

現代人にとって気を付けなければならない重要な生活習慣病の一つである「糖尿病」。患者さんは全国で1000万人と多く、今も増えつづけています。しかしながら、その病名はよく知られているものの、実際に「糖尿病の何が怖いのか?」を知っているかたは少ないかもしれません。
糖尿病は自覚症状がない病気で、他の病気を合併してはじめて症状が出ます。残念ながら、これらの合併症は重篤で治せないものがほとんどです。そのため、定期健診などで早期発見することが大切になってきます。ぜひ、糖尿病の知識を身につけ、予防を心がけましょう。

からだの状態はどうなっているの?

生物の細胞が働くためにはエネルギーが必要で、その主な材料になるのがブドウ糖です。(手足を動かすのにはもちろんのこと、心臓を動かすこと・息をすること・頭で考えること……すべてに欠かせません!)血液は常にブドウ糖を含んでいて、それを全身に送り届けています。この血液中のブドウ糖が「多すぎる」状態=糖尿病です。生命の維持に必要な物質が「多すぎる」とはどういうことでしょうか?

インスリンの働きが、糖の摂取量に追いついていない?

生物は飲食物からブドウ糖を吸収する・蓄えることで、エネルギーが枯れ果てないようにしています。人類は誕生から長い間 十分な食べ物を確保することが難しかったので、吸収したブドウ糖を「しっかり蓄える・効率よくつかう」身体の仕組みができました。しかし現代では飲食物のエネルギー(特に糖類)が多すぎるにも関わらず肉体労働も減っているため、ブドウ糖が余ります。このような状態ではブドウ糖を吸収する・蓄えるために膵臓から分泌されるインスリンの量が足りなかったり、効き目が弱まったり、結果として血液中の糖が多くなってしまいます。

多すぎる糖が、小さな血管や神経を傷つける?

多すぎるブドウ糖は小さな血管や神経を傷つけます。これが、糖尿病が他の病気を引き起こす理由です。特に小さな血管に頼っている心臓・眼・腎臓や、神経の働きが重要な脳・足に障害が目立ちます。失明に至る網膜症、透析を必要とする腎臓病、手足のしびれからやがて感覚がなくなり壊死していく神経障害が糖尿病の三大合併症といわれています。「糖尿病」はあまった糖が尿の中に排泄されることからついた名前ですが、その実態は血液の問題、さらにはそれによる全身の問題なのです。

糖尿病の判断基準は?

糖尿病は危険な病気ですが、自分で気づくことができません。合併症が出てから気づくのでは手遅れになってしまいます。そのため健診で早期発見することが重要です。尿検査で糖が検出されてわかることもありますが、初期の糖尿病は見逃されてしまうため、血液検査でブドウ糖(血糖)を測定する必要があります。以下の2つの数値に注目します。

  • 血糖値

    早朝空腹時の血糖値が126mg/dL以上が糖尿病と診断される目安になります。早朝空腹時でない血糖値を随時血糖といいますが、この場合は200mg/dL以上が目安です。飲食するとすぐに血糖値は高くなるため、タイミングによって目安は変わります。このように変動が大きいものなので、一回の検査で糖尿病(またはそうでない)と判断するのは不確実です。

  • HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)

    そこでHbA1cの数字も見てみましょう。血糖値がそのときどきの血液中の糖の量を表すのにたいして、HbA1cは「自分の2ヶ月の血糖の平均」です。(専門的な説明だと血液に含まれるヘモグロビンのうちブドウ糖と結びついている割合)HbA1cが6.5%以上が糖尿病と診断される目安になり、治療中はHbA1cが7.0%以下が目標です(年齢や合併症によってこの数字は変わります)。

治療について

糖尿病の通院は生活習慣の見直しからはじめます。食事と運動を中心に改善し「摂取カロリー<消費カロリー」の状態を目指します。とはいえ長年の習慣を変えるのは難しいことですから、体重やHbA1cの変化を見つつ、服薬治療もおこなっていきます。糖尿病の治療は長く続けることで効果がでてくるものです。ストレスを最小限に抑え、続けられる治療を相談していきましょう。
一方で、糖尿病の悪化や治療の副作用は急に進むことがあります。体調の変化があるときはどうすればいいか?を知っておかなければなりません。残念ながら、適切に対応できず、救急入院される患者さんが多いように感じています。(コラム「シックデイ」)

治療について

治療をはじめるまえに

血糖値やHbA1cが高いとき、まずはどれだけ全身に影響が出ているか、全身診察と追加検査で調べます。特に眼の奥にある網膜の状態を調べることが重要で、障害が出ている場合に、急に血糖値を下げてしまうと、むしろ障害が進む危険があるからです。糖尿病の状態を良くしすぎたために視力を失うとなどということは避けなければいけません。糖尿病の治療を開始する前に(あるいは緩めの治療をしながら)網膜の検査をしますが、これは内科ではできませんので、眼科を紹介して受診していただきます。このように、糖尿病の診断は患者さんの全体像を把握することから始め、HbA1cの数字だけがひとり歩きしないように心がけています。

治療について

薬の効果と副作用

糖尿病の内服薬には種類が多くあり、それぞれに特徴があります。私たち内科医は、血糖を下げる働きだけでなく血管や内臓を守る効果副作用に注目します。副作用のない薬はありませんので、患者さんにとって害がないように、慎重に選んでいます。患者さん(またはご家族)は世の中すべての薬を知る必要はありませんが、ご自分に処方された薬の効果や副作用は知っておくことが重要です。私はそれぞれの薬の特徴をお伝えするようにしています。

治療について

インスリン注射

糖尿病の患者さんの一部は注射薬のインスリンを必要とします。糖尿病のうち約5%の膵臓からインスリンが分泌されない1型糖尿病の方と、糖尿病のうち約95%の膵臓からインスリンが分泌される2型糖尿病インスリンの量が少なかったり、効き目が弱くなったり(インスリン抵抗性)する方です。内服薬がないので、1日1~4回 家庭で皮下注射する必要があり、患者さんは抵抗を感じられますが、糖尿病治療において最も効果的であり、本来の身体の働きに近いため、内科医としては安心感があります。

治療について

運動の効果

血糖をエネルギーとして使うためには運動が必要です。私たちはじっとしているだけでも1日1200~1500キロカロリーを消費していますが(基礎代謝といいます)これは筋肉の量に左右されています。ほとんどの日本人成人(特に糖尿病患者さん)では筋肉量を増やすことで基礎代謝を増やすことができます。私はプールで遊泳(泳げない方は、水中ウォーキングでも)をおすすめしています。糖尿病患者さんは体重で膝や腰に痛みがある方が少なくありませんが、水中なら負担なく運動できますので、苦痛なく減量できるからです。手軽に自宅でスクワットやダンベルをするのもいいですね。もちろん歩行などの有酸素運動も重要で、糖尿病標準診療マニュアルでは1日15~30分・1日2回・週3日以上の歩行がすすめられています。いずれにせよ、糖尿病治療は長く続きますから、10年20年後の内臓や健康寿命を守るきもちで、無理なく継続することが大切になってきます。

シックデイにそなえましょう

風邪をひいてだるいときや胃腸炎で吐き気があるときなどは食事を控えますが、このようなときは食事で糖を摂取できないため、体内では血糖が下がっています。これは糖尿病患者さんにとって良いことに思えますが、実際は非常に危険です。内服薬やインスリン注射をつかっている場合、血糖が下がりすぎてしまい、ひどいときは昏睡状態におちいります。では内服薬やインスリン注射をやめるほうがいいかというと、今度は急にバランスが崩れて、より危険な状態になってしまうことがあります。糖尿病の治療中にこのようになることをシックデイといい、自己判断による調整は難しく、医師が繊細に調整しなければいけませんし、場合によっては点滴や入院が必要です。糖尿病の治療をしている方は、シックデイの対応について主治医と相談しておくことが大切です。

糖尿病の診察で足を診るのはどうして?

糖尿病は血管や神経を障害するので、当然 血管や神経が長い部分がダメージを受けやすくなります。糖尿病を10~20年間も患っていると、足・特に足先の趾(ゆび)に症状が出現します。はじめは神経の症状で痺れなどの不快感がでてきて、鎮痛薬などで治りにくいため、不眠の原因にもなります。さらに神経障害が進むと、足の感覚が鈍くなり、痺れも痛みも感じなくなり……糖尿病の血管障害で足の血流が悪いため、感染に弱くなってもいます。小さな傷から感染し、気づいたときには、足全体に菌が回っていたということも。私も救急病院で、生命を救うために、感染した足や下肢を切断した患者さんを数多く見ました。
このようなことを防ぐため、糖尿病の外来では足を診察します。血液検査のHbA1cの話をしているのに靴下を脱ぐようにお願いされて、不思議に思われるかもしれません。冬などは寒いのにごめんなさい。しかし、症状が出る前に足の問題を見つけるためです。傷があればもちろん、陥入爪(爪の食い込み)や鶏眼(魚の目)にも要注意です。傷をつくるまえに治療します。このような取り組みを「フットケア」と呼び、糖尿病治療の大切なひとつです。患者さんとご家族は、ご自宅でも足の状態を観察していくことをおすすめします。

大平下病院の内科外来では、健康寿命をのばすために、皆さんの「データ」ではなく「からだ」と「こころ」を整えます。

大平下病院 内科医師 杉本龍史
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