高血圧症
高血圧症とはどんな状態?理想の血圧は?治療のステップを解説
皆さんもよくご存じのとおり、高血圧症は重要な生活習慣病のひとつです。中年以降の日本人では、なんと半数以上の人が高血圧症と診断されており、健診で「血圧が高い」と言われてドキッとした……という人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。ですがその中で、実際に高血圧症とはどんな状態なのか?高血圧であることがなぜ体に悪いのか?を分かっている人は実は多くありません。
高すぎる血圧はじわじわと体にダメージをあたえる
高血圧症とは血圧が高い状態が続くこといいます。血圧は、心臓から全身に送り出される血液の勢いで、身体に必要な力です。しかし、高すぎる血圧は、それを受け止める全身の血管や内臓を障害します。心臓は1分間に60~100回、1日では10万回以上も拍動して血液を送り出します。毎回の血圧で血管や内臓はゆっくりダメージを受け、数年以上かけて悪化します。血圧に特に弱いのは、脳の血管や腎臓、心臓自身の血管(冠動脈といいます)です。高血圧症を放置すると、脳卒中や腎臓病、心筋梗塞など多くの救急疾患で生命を失ったり後遺症を生じたりします。高血圧症の治療は、これら臓器の障害を防ぐことです。血圧の数値が注目されがちですが、これは目安に過ぎません。重要なのは全身の状態です。
理想の血圧は人それぞれでちがう
血圧目標はさまざまな要素を踏まえてきまります。(以下、3つのポイントでまとめたので、読んでみてください)なんだか複雑だぞ?とお思いになるかもしれませんが、忘れないでいただきたいのは血管や内臓の障害を防ぎ、健康で長生きするのが大事だということです。ですから、私が患者さんとお話するときには、ガイドラインに数値を当てはめることだけを目指しません。からだ全体が負担なく、長く治療を続けられることを重視しています。
理想の血圧は ①年齢や持病によって変わる
実は低すぎると臓器の血流が保てないなどのデメリットがあり、下がればいいというわけでもありません。年齢によっても「65歳以上では血圧が高いことのリスクがあり目標値が低くなるが、高齢になるほど低い血圧の危険性も増すので、75歳以上では目標値が少し高くなる」などと変動しますし、糖尿病や心臓疾患などの基礎疾患(持病)があれば、病気の発症や再発を予防するため、血圧はより低めが望まれます。(このことは喫煙しているだけでもあてはまるので、いかにタバコが血管と内臓に悪いかが分かりますね)
理想の血圧は ②測定のタイミングで変わる
早朝と日中で血圧の数値が変わる、怒ったり焦ったりすると血圧が上がる、というのは皆さんも経験されていることでしょう。診察室で血圧が高く「家ではもっと低いのに」と言いわけのようにおっしゃる患者さんも多くいます。それは血圧のはたらきとして当然で、時間や気温などの状況で変化しますし、ストレスや緊張では上昇します(太古の人間はそのようなとき、全身に血液をめぐらせて活動する必要があったためともいわれています)。ですから日本高血圧学会のガイドラインでは、目標血圧を診察室の数値と自宅の数値でわけています。
理想の血圧は ③その時代の研究結果によっても変わる
血圧はどのくらいがいいのか?も研究されつづけており、その数値は時代とともに変化していきます。私たちはそれをまとめたガイドラインを参考に診療します。たとえば2019年版の日本高血圧学会のガイドラインでは、一般成人の血圧は130/80㎜Hg以上、75歳以上は140/90㎜Hg以上を高血圧とし、ここからさらに低い数値が目標の血圧になります。(基礎疾患によってさらに低い数値が決められています)なお、自宅ではさらに5㎜Hgくらい低い数値が目標になっています。
服薬で血圧を適切に保つ
高血圧症の治療では全身の状態を診て、内臓の障害を未然に防ぎながら、服薬で血圧を適切に保っていくことが大切です。(私の外来で血圧を測るだけでなく、心臓の聴診や、ときにおなかや手足の診察もしているのはそのためです)
血圧を下げるための高血圧の薬は数十種類もありますが、これは「内臓を守る作用」にちがいがあるからです。(たとえば心臓の負担を軽くする薬・腎臓の障害を防ぐ薬など)血圧を下げるのに強力な新薬はありますが、そればかりに頼らないで、全身の状態にあわせた服薬が必要だと感じています。
生活を改善する
それまでの生活習慣が原因で高血圧症になっているというケースが多いため、治療には生活習慣の改善が必要です。「食事の改善・運動・減量・禁煙・節酒」などが効果的ですが、なんといっても塩分の減量が大切です。塩分の過剰な摂取は体の水分量を増やし、またホルモンの働きによって、血圧を確実に上昇させるからです。
治療のためには1日6g以下に抑えることが目標ですが、日本人の1日の塩分摂取量は平均10g前後で、高血圧症の患者さんはそれより摂取しているはず。私たちが日常で口にするものには多くの塩分が含まれているので、塩分制限には食事の知識が必要になってきます。これは簡単なことではありません。(たとえば気軽に食べられておいしいカップラーメンはスープまで飲み干せば4g以上、多いものでは6gにもなり1日分を摂取することになってしまいます)
今日の食事が明日の自分をつくる、などと言われます。楽しく美味しく料理を作れたら、高血圧症だけでなく、多くの生活習慣病の治療ができます。もちろん、体の治療だけでなく、精神面や人間関係にもいい影響があるでしょう。以下に食事の参考例をあげました。
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地中海式料理
私たちが家庭でできる食事内容で参考になるのが、地中海沿岸地域で伝統的に実践されている「地中海式料理」です。自然の素材や良質なオリーブオイルが中心で、低糖質・高タンパクと理想の栄養バランス。ハーブやスパイスの活用で、塩の使用量もおさえながら美味しくつくれます。
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減塩和食
伝統的な和食は塩分が多くなる欠点があるといわれていますが、塩分を減らす調理方法も編み出されてきており、私も注目しています。出汁・酢・塩こうじなどのうまみ食材、山椒・ミョウガ・カレー粉などのアクセント食材をうまく使って、塩に頼らなくても美味しくなります。
二次性高血圧
生活習慣や年齢・体質が原因ではなく、病気が原因で高血圧になっている患者さんが1割くらいいることが知られています。(内分泌疾患や心臓弁膜症など)これを二次性高血圧といいます。血圧測定だけでなく丁寧な診察をすることでこれらを見つけます。一部の病気は診察だけでは見つかりにくいので、血液検査や超音波検査をおすすめしています。これらの病気を放置していると、高血圧症で通院をしているのに、血圧が下がらないだけでなく健康が損なわれていくことになります。比較的若くて血圧の高い方、十分な内服治療でも血圧が下がらない方は、二次性高血圧の診療が必要といわれています。
睡眠と血圧の関係
毎日の睡眠が高血圧症と大きく関わっていることがわかってきました。「睡眠時間が短い」「熟睡したかんじがなく、日中の眠気が強い」など不十分な睡眠は自律神経やホルモンのバランスを悪化させます。(高血圧症だけでなく、糖尿病・脂質異常症・肥満・心臓病など……多くの問題につながることが証明されています)そのため私の外来では高血圧症の通院であっても睡眠の相談を受けており、こころの問題や夜間の症状(たとえば尿意や足の不快感…レストレスレッグ症候群といいます)を治療することで、高血圧の改善を目指していきます。
睡眠の問題のなかでも特に血圧と深く関係しているのが睡眠時無呼吸症候群です。なんと日本人の高血圧症の約10%に睡眠時無呼吸症候群が合併されているという報告もあります。通常の高血圧症だと改善しても内服をやめられる確率は低いですが、睡眠時無呼吸症候群が原因の場合は例外に感じています。その治療だけで血圧が十分に下がっただけでなく、減量に成功・糖尿病まで改善したという例もありました。
毎日を健康に過ごすため、内科外来で睡眠の時間と質も見直していきましょう。