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アルコール性肝疾患

アルコール性肝疾患とは?元に戻らない?薬に頼れない?治療方法を解説

肝臓は「異物・毒物の分解」「タンパク質の合成」「エネルギーの貯蔵」「止血機能」など、さまざまな役割をもっています。肝臓の機能が失われたら健康に生きることはできないほど重要な臓器ですが、意外とダメージを受けやすいという弱点があります。ウイルス・薬品・アルコールで機能が低下しますが、沈黙の臓器とも呼ばれるくらい症状に乏しいため、自分で気づかないまま機能低下が進み、取り返しがつかなくなることも……飲酒習慣に注意し予防に心がけること、また健診で早期発見することが大切です。

アルコール性肝疾患とは?

長期間の過剰な飲酒は確実に肝臓に負担をかけます。肝臓の細胞の血流が悪くなって炎症が生じ、最後は壊死して(こうなったらもう元に戻りません)機能を停止します。このようなアルコールによる肝臓の異常を「アルコール性肝疾患」と総称し、段階によってアルコール性脂肪肝・アルコール性肝炎・アルコール性肝硬変と呼び分けています。

症状の進み方

アルコール性肝疾患はこのようなステップで進んでいきます。自覚症状が出てからでは治療が難しいため、早期発見が大切です。

  • 初期はアルコール性脂肪肝であることが多いです。特別な症状はなく、肝臓に脂肪分が多い状態です。節酒や減量で正常に戻ることが期待できます。ただし、脂肪肝でも重度だったり、長く放置したりすると、次の肝炎や肝硬変に進行することが分かっています。

  • 肝細胞の炎症や破壊が生じ、肝臓の機能がより低下しているアルコール性肝炎の状態です。発熱・嘔吐・腹痛・下痢などの全身症状があります。このうち重症で意識障害や多臓器不全を伴うものを劇症肝炎といい、緊急入院して集中治療室などで治療しますが、それでも救命率が低い恐ろしい状態です。

  • 末期になるとアルコール性肝硬変と呼ばれる状態になります。肝細胞は強く変形して縮んでしまい、正常な機能は大きく失われています。栄養が不足して痩せていく一方で、腹水が貯まりおなかが大きく苦しくなります。吐血や昏睡の危険も高まります。

どうやって見つけるの?

自覚症状が出現する「肝炎」「肝硬変」の段階になってしまうと、治療が難しくなってしまいます。内科外来では飲酒習慣の聞き取りとあわせて血液検査のわずかな異常などから早めに診断して対応することを心がけています。また、他の原因(肝炎ウイルスなど)で肝臓が障害されていないかなども検査して、正確な診断につなげます。

  • 血液検査

    肝酵素と呼ばれるASTALTに注目します。肝細胞の障害を反映して、これらの数値が基準より高くなる特徴があります。(アルコール性肝炎ではALT<ASTとなるのが特徴です)また、γ-GTP(ガンマジーティーピー)の数値も高くなる特徴があります。

  • 超音波検査

    血液検査で異常がなくても、アルコール性肝疾患が否定できるわけではありません。超音波検査で脂肪肝を確かめることも必要です。脂肪の多い肝臓は超音波検査で白く光って見えるため、診断が可能です。

治療について

薬にたよれない?

アルコール性肝疾患はどの段階であっても節酒・禁酒が治療の中心になります。薬で肝臓の機能を改善することはできません。薬であっても人体にとっては「異物」であり、肝臓の負担を増やすことになるからです。このため基本的に肝疾患の治療で薬の役割は小さくなり、痛み止めや吐き気どめなどのいろいろな薬も使いにくくなるのが現実です。

治療について

精神科との連携

アルコールが原因の病気ですから、治すためにお酒を減らす・止めるというのは単純な理屈です。飲酒の習慣がないとそう思われるかもしれません。しかし禁酒は簡単でなく、特に肝疾患になるほど過剰な摂取の習慣がある患者さんには非常に困難です。仕事や生活と密接に結びついてしまっていたり、中毒物質であるアルコールの依存状態だったり、不眠や不安といった身体的苦痛や精神的苦痛を紛らわすために飲酒を止められないという場合もあります。「本人しだい」「意思の力」と片づけず、周囲の力も借りて、場合によっては精神科医との連携も検討します。

リンク|アルコール依存症について

治療について

飲酒の適正量は?

適正な飲酒量は、1日の純アルコール量が20g程度と言われています。純アルコール20gとはビール500mLまたは日本酒1合、ウイスキー50nL程度に相当します。この2倍で生活習慣病のリスクが高まり、3倍でアルコール性肝疾患の原因と推定されます。(女性や遺伝的にアルコールに弱い人は少ない量でも疾患が生じます)このとき、アルコール度数に注意しましょう。たとえば上記のビールは一般的な度数である5%としていますが、クラフトビールなどにはより高いものもあります。また、スーパーやコンビニエンスストアで気軽に手に入る缶チューハイは、香料や添加物が含まれ飲みやすいのですが、種類によっては10%近いものもあります。それほど飲酒したつもりでなくても、簡単に多量飲酒を満たす量に達してしまいます。

治療について

休肝日をつくろう

飲酒習慣は頻度にも注目です。毎日飲酒している場合、まずはアルコールを一切取らない休肝日をつくることをおすすめします。摂取量や体質にもよりますが、アルコールの分解には約5時間~かかるため、毎日飲酒していると連続運転の状態になってしまいます。休肝日をつくることで、ダメージを受けた幹細胞の回復が期待できます。また、アルコール摂取量を休肝日数分だけ減らすことができます。ただし、効果を得るのに必要な日数は週3日以上と報告されています……これはすこしハードルが高いかもしれません。まずは週1回、お酒なしでも食事や会話を楽しめる時間をつくってみてはどうでしょうか。

コラム

重度の肝炎~肝硬変の治療について

アルコール性肝炎の程度が重ければ、入院治療を必要とします。確実な禁酒・食事や点滴での栄養補給などができるからです。薬の役割は小さいですが、禁酒にともなう症状を軽減したり、胆汁を流しやすくして肝臓の負担を減らしたりする薬を使うこともあります。重篤な劇症肝炎は、迅速に判断して集中治療室で全身管理をすることが必要です。
末期状態のアルコール性肝硬変になると、肝臓の機能が大幅に低下して全身に影響が出てきます。前述のとおり治すことはできないので、その進行を抑え、影響を少なくするため、長い通院治療をすることになります。内科外来では全身の診察や検査を繰り返し、長く健康を保てるように治療していきます。この段階では「身体の水分が多くなるので利尿薬を用いる」「カリウムというミネラルが不足するので薬で補う」「体内に残る有害物質により意識障害が出る(肝性脳症)ことがあり、これは便秘で悪化するので、下剤を用いて予防する」など薬の治療が不可欠です。さらに、症状が悪化した場合は入院が必要です。栄養のための太い点滴をしたり、腹水を注射針で抜き取ったりします。また、食道や胃から出血するのを防ぐ治療やできてしまった肝臓がんを早めに治すには専門的な入院が必要です。

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